相続手続きは、単に書類を集めるだけの作業ではありません。相続人の確定や財産の把握、遺言書の有無の確認など、多くの情報を正確に整理しなければならないため、事前の準備が手続き全体の円滑さを左右します。その際に非常に有効なのが、ヒアリングシートの活用です。ヒアリングシートとは、相続に関する情報を体系的に整理するための聞き取り資料であり、初動での情報収集と確認を可能にします。
相続では、相続人や関係者が多くなると話し合いが複雑になる傾向があります。特に、相続財産に不動産が含まれる場合は、登記や登録免許税、固定資産税評価額などの情報も関係してきます。これらを正確に把握するためには、戸籍謄本や評価証明書といった書類だけでなく、本人や関係者からの聞き取り情報が極めて重要です。
また、相続には期限もあるため、早期に正確な情報を集めることが必要です。例えば、相続放棄の期限は基本的に相続開始を知ってから3か月以内とされており、その判断にもヒアリング情報が欠かせません。万が一、この判断が遅れると不本意に負債まで引き継ぐ可能性があります。
さらに、遺言書が存在する場合とそうでない場合では、手続きの流れが大きく異なります。遺言書があるかどうかも、本人や親族からの情報収集に基づいて初めて判明することも多いため、ヒアリングシートに遺言書の有無や保管状況の確認項目を設けておくことは実務上非常に有効です。
事前準備が不十分だと、遺産分割協議が進まず、相続登記が滞ったり、金融機関の手続きが複雑になったりするなど、手続き全体に遅延や負担が発生します。こうしたリスクを減らすためにも、情報の収集と整理を目的としたヒアリングシートは、極めて有用なツールとなります。
以下に、相続開始直後に必要となる主な情報と、ヒアリングシートでの記載例をまとめました。
項目
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内容例
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被相続人情報
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氏名、生年月日、死亡日、本籍、最後の住所等
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相続人情報
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続柄、氏名、住所、連絡先、戸籍の有無
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財産情報
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預金、不動産、有価証券、車、負債等
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遺言書の有無
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有・無、保管場所、種類(自筆、公正証書)
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必要書類の状況
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戸籍、住民票、印鑑証明、固定資産評価証明書等
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このように、相続手続きの成否は、最初の情報整理にかかっているといっても過言ではありません。ヒアリングシートによる事前準備は、後戻りできない相続プロセスにおいて、大きな安心材料となるのです。